成立とあゆみ

ドイツ『惠光』日本文化センター(略称 惠光ハウス)は株式会社ミツトヨの 創業者沼田惠範によって、1988 年に発願された。 このあたりの経緯から、ドイツ「惠光」日本文化センターの存在理由の説明を始めよう。

沼田惠範は1916 年19 歳でアメリカ合衆国に渡り、貧困と過酷な労働にあえ ぎながらも学問を修得しようと努めていた。 だが、無理がたたって22 歳の頃に、 当時は不治の病とされた結核に罹ってしまった。 絶望の淵に沈み、深い孤独の中 でもがき苦しむ日々が続いた。 そんな中で、心の底から出会ったのが親鸞1の臨 終時の言葉(「御臨末の御書(ごりんまつのごしょ)」)であった。

「一人居て喜ばゝ、二人と思ふべし、二人居て喜ばゝ、三人と思ふべし、その一人は親鸞なり(一人で居てうれしく思うならば、そのときは二人いると思いなさい。二人で居てうれしく思うならば、そのときは三人で居ると思いなさい。そのうちの一人は親鸞です。)」

この言葉によって、自分は孤独ではない、つねに親鸞聖人が惠範とともに居てくれると実感した。親鸞聖人が心も体も包み込ように見守り続けて一緒に居てくれているとの確信が孤独と絶望を吹き飛ばし、晴れ晴れとなった。この体験が惠範の身も心も建て直してくれた。その結果、不治の病であったはずの結核がこの親鸞体験からおよそ1年後には快方に向かった。そして、1921年には米国カリフォルニア大学バークレー校(UCB)に入学を果たし、1928年には統計学と景気変動論を専攻し、大学院修了を迎えることができた。

この病気治癒の体験を機に、沼田惠範は、親鸞聖人の教えのおかげ、より一般的にえば、仏教の教えのおかげで「自分は生かされて生きている」と自覚できた。 そして、この素晴らしい仏教の教えを、世界の人々に伝えなければならないという使命感を持つようになった。

後年、精密計測機器会社のミツトヨを創立したのも、仏教の教えを世界に広めるための活動資金を得るためであった。そして、株式会社ミツトヨの利益の一部を基金にして、仏教伝道を目的に、1965年仏教伝道協会が東京に設立された。

この仏教伝道協会(BDK Japan)の海外活動拠点のひとつとして、ドイツを中心にヨーロッパの人々に仏教伝道(BDK EUが中心となるが、惠光ハウスも分け持つ任務)と仏教に基づく日本文化の伝播をする活動を通して、世界に平和を建立に貢献することを目的に、ドイツ「惠光」日本文化センターが設立されることになった。

沼田惠範の趣旨に賛同したのは、デュッセルドルフ市、日本企業の多くの会社 や組織、そして仏教を支援する宗教界の諸方面(特に日本仏教の多くの宗派)で あった。 これらの諸方面からの様々な形の支援を得て、ドイツ「惠光」日本文化 センターは1992 年に完成した。 すなわち、この年に、日本仏教の広宣と日本仏 教に基づく日本文化の紹介とより深い理解滲透の目的遂行を期する機関として ドイツ「惠光」日本文化センターが成立したのである。 この惠光ハウスの象徴的 原点となることになる惠光寺の阿弥陀如来像の入仏式を迎えたのである。

2022年は、ドイツ「惠光」日本文化センターの全活動の象徴的礎となる恵光寺本堂に設置された阿弥陀仏の入仏式から30年目にあたる。

1 親鸞(1173年~1263年)は鎌倉時代(12世紀後半~1333年)に生き、浄土宗の開祖・法然(1133年~1212年)の指導を受けて阿弥陀仏陀に帰依した。法然の教えをさらに発展させ、阿弥陀如来の「他力」を絶対の信頼とする浄土真宗の開祖となった。

沼田惠範

沼田惠範(仏教伝道協会発願者)

一筋の道

『一筋の道』(沼田惠範著/1975年)

ご挨拶

松丸壽雄(所長):挨拶

目的と事業

以上のような経緯で設立されたドイツ「惠光」日本文化センターは、沼田恵範氏の初志を引き継いで、本来平和的な仏教に依拠しながら、その教えを広め、更により深い理解とこの仏教の教えに基づく日本文化の紹介と定着をヨーロッパとそれよりも広い地域へ広めることを目指すべきであると私たちは考えている。

その際同時に、沼田恵範の心底に存している共生の理念に従い、私たちは、ドイツ「惠光」日本文化センターは、特定の仏教宗派に捉われず、多くの仏教宗派に開かれた(所謂「通仏教」的)施設であるべきであると考えている。さらには、活動の範囲を仏教に限らず、多宗教との交流を図る方針を打ち建てている。他宗教との交流を対話からはじめ、相互理解を図りたい。本来平和的な共通基盤を諸宗教に見い出すことにより、世界に平和を打ち建てていくことに貢献できると考えている。

かくして、この沼田惠範師の初志を引き継いで、仏の教えと日本仏教に基づく日本文化の理解と滲透を図り、この活動と諸宗教間の相互理解を通して世界の平和実現に貢献することがドイツ「惠光」日本文化センターの目的である。

その目的を達成するために、次の事業を掲げる。

  1. 仏教典籍の現代語訳および外国語訳による編集と普及事業
  2. 仏教の教えと仏教に基づく日本文化とその学術振興を促進する事業(ヨーロッパ地区の沼田仏教講座への支援事業および図書館業務も含む)
  3. 仏教の教えと仏教に基づく日本文化とその学術振興促進に対する支援・助成事業(奨学金給付事業も含む)
  4. 仏教の教と仏教に基づく日本文化を広め、理解を促進する活動とその支援事業(幼稚園運営事業も含む)
  5. 施設の貸与事業
  6. その他、この法人の目的を達成するために必要な事業(他宗教との交流・対話による相互理解と世界平和実現の共同貢献作業等もこの事業に含まれる)

ドイツ「惠光」日本文化センターは、これらの事業をヨーロッパのみならず世界に向けて展開する。ドイツ「惠光」日本文化センターの職員は一丸となってこの目的実現に努めていく。

組織

ヨーロッパ仏教伝道協会

ヨーロッパ仏教伝道協会は、仏教の持つ慈悲と共生の精神を世界のひとりでも多くの人に伝え人類の幸福と世界平和の実現を目指している日本の仏教伝道協会に協力し、『仏教聖典』の頒布活動を推進し、さらには、仏教学術振興のため、ヨーロッパの大学での沼田仏教講座への支援をしております。

沼田仏教講座:

ハンブルグ大学 (ドイツ)
ハンブルグ大学 (オランダ)
ハンブルグ大学 (オーストリア)
オックスフォード大学(イギリス)
ハンブルグ大学 (イギリス)

私達は、特定の宗派にとらわれず、仏教がもつ叡知を一人でも多くの世界の人びとに伝える活動を通して、民族や国家の境を超えて、すべての人びとが平和な社会の中で幸せな生活ができることを願っています。

仏教聖典チラシ

仏教聖典問い合わせ&注文 攝受弘宣(bdk AT eko-haus.de

惠光幼稚園

惠光幼稚園は、惠光センターの趣旨にのっとり、国際的な文化交流を積極的に推進することを目的としています。

「惠光」という名称には、み仏の智恵と慈悲の光に恵まれ、その恩恵が普くゆきわたることへの願いが込められています。 私たちの幼稚園は、その名の通り、人間的な温かさ、思いやり、命の尊さ、感謝・感激の気持ちを持ったまっすぐな人間を育てるという精神で設立されました。

私たちは、ドイツと日本の子どもたちが、共に遊び、学ぶことを通して、国や民族、言語、文化、そして宗教の壁を乗り越え、共に生きる共同体の感覚を身につけることを望んでいます。